2019年1月20日日曜日

メキシコの麻薬王・エルチャポの関係者が証言「家族の面倒もみた。そのお返しが4度の襲撃だ。拷問部屋」

拷問部屋、殺しのセレナーデ…メキシコの麻薬王・エルチャポ裁判傍聴記1

2019/1/19(土) 12:00配信



ニューヨーク市ブルックリン地区にある連邦地裁で、メキシコの麻薬王ホアキン・グスマン被告(通称「エルチャポ」)の裁判が行われている。

エルチャポは、世界最大級の麻薬密輸犯罪組織シナロア・カルテルの首領で、米当局者に「アル・カポネ(禁酒法時代の暗黒街の帝王)よりずっと危険」と呼ばれた男だ。2016年1月にメキシコで逮捕され、17年1月にメキシコから米国に移送された。麻薬密輸やマネーロンダリング(資金洗浄)など17の罪で起訴されたが、無罪を主張。18年11月に始まった裁判は数カ月間続く見通しだ。

◇間近でみた麻薬王は七三分けの小柄な男だった

8階のD号室。裁判所の入り口で飛行場にあるようなセキュリティーゲートを通過したのに、部屋の前で再び金属探知機をくぐる。携帯電話や録音機は持ち込めない。陪審員は名前も職場も公表されない。カルテルに脅されることを防ぐためだ。

エルチャポはスペイン語で「ちび」という意味だ。そう呼ばれるだけあって本当に小柄だった。大柄の弁護士にはさまれて座っている被告人の顔が、最初に座った被告人側の傍聴席からは見えず、検察側傍聴席に席を変えて、やっと見えた。

四角い顔で目の間が狭い。青いスーツを着てネクタイを締め、髪を七三に分けている。まるで30~40年前の日本のサラリーマンみたいだ。弁護士の説明に熱心に耳を傾け、ときどきほほ笑みを浮かべる。首を伸ばしてしきりに傍聴席や陪審席を見回す。興味津々という表情で、にらみつけられるわけではないのだが、視線が合うと、怖い。

◇「その家に入った者は誰も出てこなかった」

メキシコでは米国への麻薬密売ルートをめぐり、カルテル同士が抗争を繰り返している。米国の検察官によれば、エルチャポは敵対するカルテルの幹部など30人以上の殺人に関与した。裁判では元部下たちが次々と証言台にたち、エルチャポやシナロア・カルテルの悪業をさらした。

証言によると、米テキサス州エルパソと国境を挟んで向き合うメキシコのシウダフアレスに誘拐した人間を拷問して殺害する隠れ家があった。

米国から武器を密輸してシナロア・カルテルに提供していた男は、エルチャポのヒットマン(殺し屋)にこうした家の一つを見せてもらった。部屋は叫び声が外にもれないように防音装置が施され、床は白いタイル張りだった。流れた血を簡単に洗い流せるよう下水につながる溝が作られていた。男は証言した。「その家に入った者は誰も出てこなかった」

別の部下も、飛び散る血が染みつかないようにプラスチックのシートで壁が覆われ、床に溝が作られた拷問部屋があると証言している。

エルチャポと対立する者は無残な死を遂げる。命令を聞かなかったため、首と頭が離れるまで弾丸を撃ち込まれた幹部。エルチャポが差し出した手を握らなかった対立組織の幹部は、映画館を出た際に妻ともども射殺された。

裁判では、柱に縛りつけた男を自ら尋問するエルチャポの動画も提示された。

◇「殺しのセレナーデ」を聞かされた元右腕

かつてエルチャポの右腕だったミゲル・アンヘル・マルティネス氏の証言は、エルチャポの粘着質な性格をよく表している。

マルティネス氏は、シナロア・カルテルが小さな組織だった頃からエルチャポに仕えた男だ。コカインを生産国のコロンビアから消費地の米国に運ぶ密輸ビジネスに乗りだした後は、湯水のように入る金で一緒に豪遊。偽造パスポートと偽造ビザで世界中を旅した。エルチャポが1993年に逮捕されたとき、残された家族や愛人の面倒をみたのはマルティネス氏だ。

だが、マルティネス氏が98年に逮捕されると、エルチャポは何度もマルティネス氏の暗殺をはかった。身辺情報が当局に漏れることを恐れたためだろう。

確かに他にも狙われる理由はあった。信頼が厚かったマルティネス氏は、エルチャポの代わりに自分の名前で不動産を何軒か登記していた。なかにはエルチャポの愛人が住む家もあった。逮捕された後に弁護士費用捻出のため、ボスの許可なくこうした不動産を売ったのだ。

マルティネス氏は刑務所内で囚人仲間に3度もナイフで刺された。囚人たちはマルティネス氏を殺せば、エルチャポから金をもらえる。「夜、彼らがナイフの刃を研ぐ音を聞いた」。マルティネス氏は証言した。

3度の暗殺未遂の後、マルティネス氏は独房に移された。ある夜、刑務所の外でメキシコのマリアッチ(楽団)がエルチャポの好きな楽曲「UN PUNO DE TIERRA(ひとつかみの土)」を歌った。殺し屋を差し向けたことを知らせるエルチャポからのメッセージ、「殺しのセレナーデ」だ。

翌日、シカリオ(殺し屋)が刑務所を襲った。刑務官の頭に銃を突きつけ、マルティネス氏の独房の扉を開けるよう命じたが、刑務官は抵抗。殺し屋は手投げ弾を二つ、独房に投げ込んだが、マルティネス氏はトイレに飛び込んで助かった。

「俺は命令されてしくじったこともなかったし、彼の金を盗んだこともなかった。家族の面倒もみた。そのお返しが4度の襲撃だ」。マルティネス氏はそう証言した。

ところで、エルチャポが「殺しのセレナーデ」に使った「ひとつかみの土」という歌は、「ナルコ・コリード」と呼ばれる音楽で、ひと言でいえば、麻薬密輸業者の人生の機微を歌いあげる“演歌”だ。

その曲はこんな歌詞だった。

「人生は短い。死ぬとき、あの世には何ももっていけない。ひとつかみの土を持って行くだけだ」

【ニューヨーク國枝すみれ】

参照元 : 毎日新聞


刑務所が安全なのは日本だけか?海外マフィアは恐ろしいですね。残虐性はメキシコ麻薬カルテルが最強か?



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