元暴力団員らを支援「悪役芸能事務所」 「こわもて」生かし社会復帰 東京
2019/1/25(金) 7:55配信
元暴力団員、元不良といった“訳あり”な人たちが身を寄せる事務所が小金井市にある。いかつい顔に、耳には大きなピアスホール…。倉本宙雨(そう)さん(53)が主宰する「高倉組」は、普通の就職が難しい元暴力団員らの社会復帰を支援する「悪役俳優芸能事務所」。今年から元受刑者の就職支援にも乗り出す。(吉沢智美)
◆面接で「無理」
「タクシー運転手になろうと思ったが、面接で顔を見られた瞬間に、『さすがに無理』と断られた」
高倉組に所属する或布理萬(あるふ・りまん)さん(44)は、暴力団から離脱した後の体験を語り、「社会復帰もできないのかと絶望感があった」と振り返った。
設立は平成23年。自らも元不良だったという倉本さんは、グラビアモデルのスカウト、ダフ屋などで生活していたが、東日本大震災をきっかけに「自分は何をやっているんだろうという悔しい気持ちになった」という。自分の経験を社会に役立てる方法として出した答えが高倉組だった。
現在約70人が所属。テレビにやくざなどの悪役として登場するほか、悪役用の衣装やアクセサリーの手配なども行う。入るには、5年以上反社会的勢力との関係がない▽仕事を持ち収入面で安定している▽守る人がいる-の3つの条件をクリアしなければならない。
組員は全員仕事を持っているが、前出の或布さんのように「社会復帰の道のりは険しい」と口をそろえる。悪役には役立つ容姿が、就職では足を引っ張る一因となるからだ。
◆応援で頑張れる
今年からは、組員でもある建築業の吉田丸さん(53)らと連携し、元受刑者を対象に寮付きの就職支援を始める。吉田さんは「迎え入れてくれる所がなかなかない。自分はたまたまうまくできているが、頑張れるものがないと、社会復帰は厳しい」と訴える。
「自分たちみたいなのは、人より努力をしないと認めてもらえない」と倉本さん。「高倉組で活動することで周りの人に応援してもらい、有名になることで、やくざには戻らないという気持ちになれる」と活動意義を語った。
■就労者わずか、厳しい道のり
警察庁によると、平成29年に警察などの支援によって暴力団から離脱した人数は約640人で、同年に各都道府県の社会復帰協議会を通じて就労したのは37人にとどまっている。元暴力団員の社会復帰への道のりは厳しいのが実情だ。
同庁によると、23~27年に暴力団員を離脱した人数は9195人。しかし、離脱後2年間で検挙された人数は2660人にのぼる。罪種別検挙件数では窃盗が全体の12・3%を占め、生活困窮の典型的犯罪である万引が最も多い。
離脱・就労支援に力を入れている福岡県では、30年4月から支援の新制度をスタート。「組織から危害を加えられる恐れがある」「金銭の援助などを頼める人がいない」などの条件を満たせば、避難先の宿泊費や就職面接の交通費を給付する。12月末までに8人に適用された。担当者は「就労支援は究極の暴力団対策の一つ。離脱するだけでは意味がない。二度と戻さないようにする施策が必要だ」と話している。
参照元 : 産経新聞
元暴力団員に聞いてわかった「辞めてから5年間の厳しすぎる現実」
2019/1/24(木) 10:00配信
暴力団の弱体化と北風の政策
全国の指定暴力団構成員等(構成員及び準構成員を含む)数は、平成29年末時点で34,500人、前年と比べ4,600人減少した。うち、暴力団構成員の数は16,800人で、前年に比べ1,300人減少し、準構成員等の数は17,700人で、前年に比べ3,200人減少した。
2010年以降、全国の自治体で暴力団排除条例(以下、暴排条例)が制定された後、暴追センター(暴力追放運動推進センター)などの支援によって暴力団を離脱した者の数は、年間およそ500~600人で推移している。
暴排条例は法律ではないが、全国的に施行されているため法律同様の効果がある。この条例によって、暴力団のシノギ(資金獲得活動)が制約され、暴力団では「食えない」時代になっている。
筆者は、2014年から約1年間、日工組社会安全研究財団の助成金を受け、西日本の暴力団離脱者、元親分など11人を対象に「なぜ離脱したのか」「いかに離脱したのか」を知るために、刑務所以外の場所で精緻な聴き取り調査を行った。
その結果、「子どもができた」「(子どもに会えないことによる)自由刑の忌避」、「親分の代替わり」などを契機に暴力団を離脱していることが分かった。
加えて、暴力団を離脱する際、組織の制裁などは課されなくなっており、離脱自体は容易であることが確認できた。詳細は、2017年に上梓した、角川新書『ヤクザと介護』に詳述している。
2010年に福岡県が全国に先駆けて暴排条例を制定して以降、暴力団離脱者が増加した理由は、単純に暴力団では「食えない」「(家族を)食わせられない」ことも一因であろう。
そもそも、1991年に制定され、翌年施行された「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(暴力団対策法)により、一般社会と暴力団との間に壁が生じた。この壁を、より高く強固にしたものが暴排条例である。
現在の日本において暴力団員であることは、憲法で保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む」権利すら保障されない。これでは、妻子持ちの暴力団員が辞めたくなることは首肯できる。
暴排条例という「北風の政策」は、暴力団である当人以外に、その家族にまで不利益が及んでおり、離脱者が増え、暴力団人口が減少の一途をたどることは当然であるといえる。
「元暴5年条項」という社会的トコロ払い
暴排条例という北風の政策で、問題となるのが「元暴5年条項」という規定である。この条項により、暴力団を離脱しても、おおむね5年間は暴力団関係者とみなされ、組員同様に銀行口座を開設すること、自分の名義で家を借りることができない。
だからといって、暴力団員歴を隠して履歴書などに記載しなければ、虚偽記載となる可能性がある。現在、企業の体質に照らしても、こうした問題は社会復帰における高いハードルとなっている。
現在の日本社会では、暴力団員も離脱者も、暴排条例などでがんじがらめに縛られており、社会権が著しく制約されている。
ある極妻によると、保育園の入園を拒否されたり、生命保険に入れなかったりと、暴力団員の家族までもが不利益を被る可能性があるとのこと。
まさに5年間の社会的トコロ払いの厳しい現実がある。
暴力団員や離脱者の社会権制約に関しては、2012年に参議院の又市征治議員が平田健二議長に対し、「暴力団員による不当な行為の防止等の対策の在り方に関する質問主意書」を提出した。
その中で、又市議員は「『暴力団排除条例』による取り締まりに加えて、本改正法案が重罰をもってさまざまな社会生活場面からの暴力団及び暴力団員の事実上の排除を進めることは、かえってこれらの団体や者たちを追い込み、暴力犯罪をエスカレートさせかねないのではないか。暴力団を脱退した者が社会復帰して正常な市民生活を送ることができるよう受け皿を形成するため、相談や雇用対策等、きめ細かな対策を講じるべきと考える」として、離脱者の社会復帰に資する「社会的受け皿の形成」に言及している。
社会に牙をむくアウトロー
しかし現時点では、離脱者が社会復帰したくても許容しない、社会的受け皿など存在しない現実がある。
人間は冬眠などと器用なことはできないから、5年間の社会的トコロ払いは現実的ではない。そうなれば、彼らは追い詰められ、生きるために、家族を食わせるために、違法なシノギを続ける選択肢しか残されていないのである。
筆者は調査過程において、社会に受け入れられなかった離脱者がアウトローとして違法なシノギを選択するさまを目にしてきた。それは例えば覚せい剤の密売、恐喝、人さらい、窃盗、強盗、詐欺行為などである。又市議員が指摘した通り、社会的に排除され、追い詰められた離脱者は犯罪をエスカレートさせている。
ここで注意すべきは、社会復帰できなかった離脱者が、社会の表裏両方でアウトローとなっていることである。
暴力団に在籍していれば掟が存在した。覚せい剤の密売をシノギとしていても未成年に販売しないなど暴力団内部のルールがあったが、アウトローに掟という楔(くさび)は存在しない。どんなことでもシノギにする危険な存在である。
警察庁によると、2015年に離脱した元組員1265人のうち、その後の2年間に事件を起こし検挙されたのは325人。1000人当たり1年間に128.5人となる。これは、全刑法犯の検挙率2.3人と比べると50倍以上になるとして、元暴のアウトロー化を肯定している(毎日新聞2018年12月23日 朝刊)。
2018年の師走、大阪の半グレ集団「アビスグループ」49人大量検挙事件が紙面を賑わせた。リーダーとナンバー2は、同年8月に大阪府警に逮捕され、傷害や暴行などの罪状で起訴されている。
ミナミには2013年に解散した地下格闘技団体「強者」のOBらが組織した07(アウトセブン)という半グレ団体も存在したが再び解散している。半グレは、暴力団のように組織化されておらず、離合集散の傾向があり、実態の把握が難しい。こうした半グレ集団は、シマ(縄張り)の暴力団にはミカジメを払ってシノギをしており、ターゲットは、カタギの一般市民である。
ちなみに、「半グレ」や「アウトロー」は、80年代頃まで「暴常」(暴力常習者)として、所轄警察でも把握していた。
しかし、1992年の暴対法施行以降、徐々に暴力団がマフィア化することで、アングラ社会の情報把握が困難になったためか、「暴常」のカテゴリーは姿を消したと、警察官OBに聞いた。
シノギに使嗾(しそう)される中高生
筆者は、福岡県更生保護就労支援事業所長として、少年院に入院している少年たちと面談し、就労支援を行っている。
少年院に収容されている彼らは10代の少年であるが、対象者の中には、結構な割合で特殊詐欺(オレオレ詐欺)の受け子経験者が居る。さらに、15歳で覚せい剤の売人も居り、犯罪が低年齢化してきている。
12月29日、「普通の中高生『受け子』急増=対策条例でリスク周知へ――大阪府警」という時事通信の記事が掲載された。「割りのいいバイトがある」などと、知人の声掛けやインターネットの交流サイト(SNS)で誘われたケースが目立つという。
大阪府警が特殊詐欺で摘発した少年は昨年11月末時点で計55人。低年齢化、過去に触法経験のない普通の少年が増えているという。
これも少子化の影響といえるのだろうが、我々の少年時代には、中学生など暴力団からは見向きもされなかった。それは、暴力団には組織の掟というタガがあり、さすがに中高生をシノギに使嗾することは考えられなかった。
しかし、暴力団を辞めて行き場のないアウトローや半グレにとっては、そのような組織の掟は存在しない。カネの為なら何でもするという開き直った姿勢は、社会にとって脅威以外の何物でもない。
では、こうしたアウトロー、半グレ問題や、又市征治議員のいう「社会的受け皿」形成のためにはどうすべきか。
筆者は、近著『ヤクザの幹部やめて、うどん店はじめました』(新潮社)などにより、社会的受け皿の具体例を示し、「太陽の政策」の実現可能性と必要性に言及している。
再犯防止推進計画と「太陽の政策」
平成28年12月、「再犯の防止等の推進に関する法律」が公布・施行された。翌29年12月には、再犯防止推進計画が閣議決定された。
それは「刑法犯により検挙された再犯者については、平成18年をピークとして、その後は漸減状態にあるものの、それを上回るペースで初犯者の人員も減少し続けているため、検挙人員に占める再犯者の人員の比率(再犯者率)は一貫して上昇し続け、平成28年には現在と同様の統計を取り始めた昭和47年以降最も高い48.7パーセントとなった」からである(法務省HPより)。
筆者は、福岡県更生保護就労支援事業所の所長として、日々、老若男女を問わず、保護観察対象者の人たちの就労支援に携わっている。
再犯の防止のために、各人のニーズを踏まえたオーダーメイドの就労支援の必要性は、筆者が現場に居るからこそ肌で感じている。
更生保護就労支援とは、罪を犯した人の就職活動に寄り添い、社会的な居場所の確保を助け、再び職業社会で活躍するチャンスを得てもらうための支援であり、「太陽の政策」の一環であるといえる。
暴力団離脱者の対応について、筆者は、関東の弁護士会や警察関係機関、自治体などにおいて、暴力団離脱者を社会が受け入れる社会的包摂の必要性につき、以下のように主張し続けている。
「暴力団離脱者を地域社会で受け入れ、就労を通して更生する『太陽の政策』が、彼らを再び犯罪的生活に戻らせないために重要であり、『北風の政策』と『太陽の政策』の協働こそが、実効的な暴力団施策になる」と。
参照元 : 現代ビジネス
テレビや映画に元ヤクザが俳優として活躍する時代が来るのか。元ヤクザだけにリアリティのある作品になるので、迫力があるが、元居た組織から危害を加えられる危険性も伴う。
元ヤクザの社会復帰は険しい道のりですね。
2019/1/25(金) 7:55配信
元暴力団員、元不良といった“訳あり”な人たちが身を寄せる事務所が小金井市にある。いかつい顔に、耳には大きなピアスホール…。倉本宙雨(そう)さん(53)が主宰する「高倉組」は、普通の就職が難しい元暴力団員らの社会復帰を支援する「悪役俳優芸能事務所」。今年から元受刑者の就職支援にも乗り出す。(吉沢智美)
◆面接で「無理」
「タクシー運転手になろうと思ったが、面接で顔を見られた瞬間に、『さすがに無理』と断られた」
高倉組に所属する或布理萬(あるふ・りまん)さん(44)は、暴力団から離脱した後の体験を語り、「社会復帰もできないのかと絶望感があった」と振り返った。
設立は平成23年。自らも元不良だったという倉本さんは、グラビアモデルのスカウト、ダフ屋などで生活していたが、東日本大震災をきっかけに「自分は何をやっているんだろうという悔しい気持ちになった」という。自分の経験を社会に役立てる方法として出した答えが高倉組だった。
現在約70人が所属。テレビにやくざなどの悪役として登場するほか、悪役用の衣装やアクセサリーの手配なども行う。入るには、5年以上反社会的勢力との関係がない▽仕事を持ち収入面で安定している▽守る人がいる-の3つの条件をクリアしなければならない。
組員は全員仕事を持っているが、前出の或布さんのように「社会復帰の道のりは険しい」と口をそろえる。悪役には役立つ容姿が、就職では足を引っ張る一因となるからだ。
◆応援で頑張れる
今年からは、組員でもある建築業の吉田丸さん(53)らと連携し、元受刑者を対象に寮付きの就職支援を始める。吉田さんは「迎え入れてくれる所がなかなかない。自分はたまたまうまくできているが、頑張れるものがないと、社会復帰は厳しい」と訴える。
「自分たちみたいなのは、人より努力をしないと認めてもらえない」と倉本さん。「高倉組で活動することで周りの人に応援してもらい、有名になることで、やくざには戻らないという気持ちになれる」と活動意義を語った。
■就労者わずか、厳しい道のり
警察庁によると、平成29年に警察などの支援によって暴力団から離脱した人数は約640人で、同年に各都道府県の社会復帰協議会を通じて就労したのは37人にとどまっている。元暴力団員の社会復帰への道のりは厳しいのが実情だ。
同庁によると、23~27年に暴力団員を離脱した人数は9195人。しかし、離脱後2年間で検挙された人数は2660人にのぼる。罪種別検挙件数では窃盗が全体の12・3%を占め、生活困窮の典型的犯罪である万引が最も多い。
離脱・就労支援に力を入れている福岡県では、30年4月から支援の新制度をスタート。「組織から危害を加えられる恐れがある」「金銭の援助などを頼める人がいない」などの条件を満たせば、避難先の宿泊費や就職面接の交通費を給付する。12月末までに8人に適用された。担当者は「就労支援は究極の暴力団対策の一つ。離脱するだけでは意味がない。二度と戻さないようにする施策が必要だ」と話している。
参照元 : 産経新聞
元暴力団員に聞いてわかった「辞めてから5年間の厳しすぎる現実」
2019/1/24(木) 10:00配信
暴力団の弱体化と北風の政策
全国の指定暴力団構成員等(構成員及び準構成員を含む)数は、平成29年末時点で34,500人、前年と比べ4,600人減少した。うち、暴力団構成員の数は16,800人で、前年に比べ1,300人減少し、準構成員等の数は17,700人で、前年に比べ3,200人減少した。
2010年以降、全国の自治体で暴力団排除条例(以下、暴排条例)が制定された後、暴追センター(暴力追放運動推進センター)などの支援によって暴力団を離脱した者の数は、年間およそ500~600人で推移している。
暴排条例は法律ではないが、全国的に施行されているため法律同様の効果がある。この条例によって、暴力団のシノギ(資金獲得活動)が制約され、暴力団では「食えない」時代になっている。
筆者は、2014年から約1年間、日工組社会安全研究財団の助成金を受け、西日本の暴力団離脱者、元親分など11人を対象に「なぜ離脱したのか」「いかに離脱したのか」を知るために、刑務所以外の場所で精緻な聴き取り調査を行った。
その結果、「子どもができた」「(子どもに会えないことによる)自由刑の忌避」、「親分の代替わり」などを契機に暴力団を離脱していることが分かった。
加えて、暴力団を離脱する際、組織の制裁などは課されなくなっており、離脱自体は容易であることが確認できた。詳細は、2017年に上梓した、角川新書『ヤクザと介護』に詳述している。
2010年に福岡県が全国に先駆けて暴排条例を制定して以降、暴力団離脱者が増加した理由は、単純に暴力団では「食えない」「(家族を)食わせられない」ことも一因であろう。
そもそも、1991年に制定され、翌年施行された「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(暴力団対策法)により、一般社会と暴力団との間に壁が生じた。この壁を、より高く強固にしたものが暴排条例である。
現在の日本において暴力団員であることは、憲法で保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む」権利すら保障されない。これでは、妻子持ちの暴力団員が辞めたくなることは首肯できる。
暴排条例という「北風の政策」は、暴力団である当人以外に、その家族にまで不利益が及んでおり、離脱者が増え、暴力団人口が減少の一途をたどることは当然であるといえる。
「元暴5年条項」という社会的トコロ払い
暴排条例という北風の政策で、問題となるのが「元暴5年条項」という規定である。この条項により、暴力団を離脱しても、おおむね5年間は暴力団関係者とみなされ、組員同様に銀行口座を開設すること、自分の名義で家を借りることができない。
だからといって、暴力団員歴を隠して履歴書などに記載しなければ、虚偽記載となる可能性がある。現在、企業の体質に照らしても、こうした問題は社会復帰における高いハードルとなっている。
現在の日本社会では、暴力団員も離脱者も、暴排条例などでがんじがらめに縛られており、社会権が著しく制約されている。
ある極妻によると、保育園の入園を拒否されたり、生命保険に入れなかったりと、暴力団員の家族までもが不利益を被る可能性があるとのこと。
まさに5年間の社会的トコロ払いの厳しい現実がある。
暴力団員や離脱者の社会権制約に関しては、2012年に参議院の又市征治議員が平田健二議長に対し、「暴力団員による不当な行為の防止等の対策の在り方に関する質問主意書」を提出した。
その中で、又市議員は「『暴力団排除条例』による取り締まりに加えて、本改正法案が重罰をもってさまざまな社会生活場面からの暴力団及び暴力団員の事実上の排除を進めることは、かえってこれらの団体や者たちを追い込み、暴力犯罪をエスカレートさせかねないのではないか。暴力団を脱退した者が社会復帰して正常な市民生活を送ることができるよう受け皿を形成するため、相談や雇用対策等、きめ細かな対策を講じるべきと考える」として、離脱者の社会復帰に資する「社会的受け皿の形成」に言及している。
社会に牙をむくアウトロー
しかし現時点では、離脱者が社会復帰したくても許容しない、社会的受け皿など存在しない現実がある。
人間は冬眠などと器用なことはできないから、5年間の社会的トコロ払いは現実的ではない。そうなれば、彼らは追い詰められ、生きるために、家族を食わせるために、違法なシノギを続ける選択肢しか残されていないのである。
筆者は調査過程において、社会に受け入れられなかった離脱者がアウトローとして違法なシノギを選択するさまを目にしてきた。それは例えば覚せい剤の密売、恐喝、人さらい、窃盗、強盗、詐欺行為などである。又市議員が指摘した通り、社会的に排除され、追い詰められた離脱者は犯罪をエスカレートさせている。
ここで注意すべきは、社会復帰できなかった離脱者が、社会の表裏両方でアウトローとなっていることである。
暴力団に在籍していれば掟が存在した。覚せい剤の密売をシノギとしていても未成年に販売しないなど暴力団内部のルールがあったが、アウトローに掟という楔(くさび)は存在しない。どんなことでもシノギにする危険な存在である。
警察庁によると、2015年に離脱した元組員1265人のうち、その後の2年間に事件を起こし検挙されたのは325人。1000人当たり1年間に128.5人となる。これは、全刑法犯の検挙率2.3人と比べると50倍以上になるとして、元暴のアウトロー化を肯定している(毎日新聞2018年12月23日 朝刊)。
2018年の師走、大阪の半グレ集団「アビスグループ」49人大量検挙事件が紙面を賑わせた。リーダーとナンバー2は、同年8月に大阪府警に逮捕され、傷害や暴行などの罪状で起訴されている。
ミナミには2013年に解散した地下格闘技団体「強者」のOBらが組織した07(アウトセブン)という半グレ団体も存在したが再び解散している。半グレは、暴力団のように組織化されておらず、離合集散の傾向があり、実態の把握が難しい。こうした半グレ集団は、シマ(縄張り)の暴力団にはミカジメを払ってシノギをしており、ターゲットは、カタギの一般市民である。
ちなみに、「半グレ」や「アウトロー」は、80年代頃まで「暴常」(暴力常習者)として、所轄警察でも把握していた。
しかし、1992年の暴対法施行以降、徐々に暴力団がマフィア化することで、アングラ社会の情報把握が困難になったためか、「暴常」のカテゴリーは姿を消したと、警察官OBに聞いた。
シノギに使嗾(しそう)される中高生
筆者は、福岡県更生保護就労支援事業所長として、少年院に入院している少年たちと面談し、就労支援を行っている。
少年院に収容されている彼らは10代の少年であるが、対象者の中には、結構な割合で特殊詐欺(オレオレ詐欺)の受け子経験者が居る。さらに、15歳で覚せい剤の売人も居り、犯罪が低年齢化してきている。
12月29日、「普通の中高生『受け子』急増=対策条例でリスク周知へ――大阪府警」という時事通信の記事が掲載された。「割りのいいバイトがある」などと、知人の声掛けやインターネットの交流サイト(SNS)で誘われたケースが目立つという。
大阪府警が特殊詐欺で摘発した少年は昨年11月末時点で計55人。低年齢化、過去に触法経験のない普通の少年が増えているという。
これも少子化の影響といえるのだろうが、我々の少年時代には、中学生など暴力団からは見向きもされなかった。それは、暴力団には組織の掟というタガがあり、さすがに中高生をシノギに使嗾することは考えられなかった。
しかし、暴力団を辞めて行き場のないアウトローや半グレにとっては、そのような組織の掟は存在しない。カネの為なら何でもするという開き直った姿勢は、社会にとって脅威以外の何物でもない。
では、こうしたアウトロー、半グレ問題や、又市征治議員のいう「社会的受け皿」形成のためにはどうすべきか。
筆者は、近著『ヤクザの幹部やめて、うどん店はじめました』(新潮社)などにより、社会的受け皿の具体例を示し、「太陽の政策」の実現可能性と必要性に言及している。
再犯防止推進計画と「太陽の政策」
平成28年12月、「再犯の防止等の推進に関する法律」が公布・施行された。翌29年12月には、再犯防止推進計画が閣議決定された。
それは「刑法犯により検挙された再犯者については、平成18年をピークとして、その後は漸減状態にあるものの、それを上回るペースで初犯者の人員も減少し続けているため、検挙人員に占める再犯者の人員の比率(再犯者率)は一貫して上昇し続け、平成28年には現在と同様の統計を取り始めた昭和47年以降最も高い48.7パーセントとなった」からである(法務省HPより)。
筆者は、福岡県更生保護就労支援事業所の所長として、日々、老若男女を問わず、保護観察対象者の人たちの就労支援に携わっている。
再犯の防止のために、各人のニーズを踏まえたオーダーメイドの就労支援の必要性は、筆者が現場に居るからこそ肌で感じている。
更生保護就労支援とは、罪を犯した人の就職活動に寄り添い、社会的な居場所の確保を助け、再び職業社会で活躍するチャンスを得てもらうための支援であり、「太陽の政策」の一環であるといえる。
暴力団離脱者の対応について、筆者は、関東の弁護士会や警察関係機関、自治体などにおいて、暴力団離脱者を社会が受け入れる社会的包摂の必要性につき、以下のように主張し続けている。
「暴力団離脱者を地域社会で受け入れ、就労を通して更生する『太陽の政策』が、彼らを再び犯罪的生活に戻らせないために重要であり、『北風の政策』と『太陽の政策』の協働こそが、実効的な暴力団施策になる」と。
参照元 : 現代ビジネス
テレビや映画に元ヤクザが俳優として活躍する時代が来るのか。元ヤクザだけにリアリティのある作品になるので、迫力があるが、元居た組織から危害を加えられる危険性も伴う。
元ヤクザの社会復帰は険しい道のりですね。
0 件のコメント:
コメントを投稿