2019年2月10日日曜日

【麻薬王裁判が大詰め】大統領の麻薬戦争終結宣言の裏に、何があるのか?「メキシコのボスが誰なのかがはっきりした」

メキシコ大統領の麻薬戦争終結宣言の裏に何があるのか──麻薬王裁判が大詰め

2019/2/5(火) 18:34配信



──「メキシコのボスが誰なのかがはっきりした」麻薬王グスマンの弁護士が発言
麻薬組織の暗躍により、最悪な治安状態が続くメキシコ。2018年の殺人件数は3.3万人と、過去最悪を記録した。そんな中、非暴力による治安回復を公約に掲げるロペスオブラドール新大統領が先週、「麻薬戦争の終結」を宣言。今後は、麻薬カルテルのドンを逮捕するという直接対決は行なわないと述べた。一方、メキシコからの麻薬密輸によりドラッグ汚染が蔓延する隣国アメリカでは、世界最大の麻薬カルテルのドン、「エル・チャポ」ことホアキン・グスマンの裁判が大詰めを迎えている。メキシコの政治家の多くは麻薬カルテルからの賄賂で骨抜きにされているというが、「エル・チャポ」の贈賄先にはロペスオブラドール大統領の元側近の存在も挙がる。麻薬戦争終結宣言の裏に、何があるのだろうか──

■ 現大統領は非暴力による「メキシコ革命」を提唱

長年中道右派と中道左派の2大政党の支配が続いたメキシコでは、昨年7月の総選挙で、新興左派政党「国家再生運動(MORENA)」を率いた元メキシコシティ市長のアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール氏が歴史的な勝利を上げた。治安悪化に苦しむ民衆が、フレッシュなリーダーによる抜本的な改革に期待した結果、得票率53%という大差での勝利となり、メディアには「新メキシコ革命」の見出しも踊った。

前任のペニャニエト大統領は、軍を投入して麻薬組織の首謀者たちを逮捕、時には射殺も辞さないという強硬路線を敷いたが、データが示す限り、それが犯罪率の低下に結びついたとは言えない。ちなみに、「エル・チャポ」は、逮捕・脱獄を繰り返した末にペニャニエト政権時代の2017年1月に、「オバマ前大統領への送別祝い」として、米側に身柄を引き渡されている。

12月に就任したロペスオブラドール大統領は、3年以内に凶悪犯罪を30-50%減らし、6年の任期でOECD諸国平均レベルまで犯罪率を下げるとしている。ただし、その手法は前任者とは正反対で、“非暴力”によってそれを達成すると唱えている。具体的には、麻薬犯罪に手を染めざるを得ない貧困層の若者たちへの奨学金支給を含めた教育・就労支援などを実施し、社会構造を抜本的に変えるというものだ。

■ 「もう麻薬王を逮捕しない」

ロペスオブラドール大統領は1月30日、上記の政策の遂行を裏付ける形で、「麻薬戦争の終結」を宣言した。メキシコシティで行なわれた記者会見で、「就任から現在までに麻薬王を1人でも逮捕したか?」と記者に問われ、「戦争などない。公式に、もはや戦争はない。我々は平和を望んでおり、平和を実現しようとしている」と答えた。

続けて、同大統領は、政府の目的は麻薬王の逮捕ではなく、あくまで「治安の回復と1日当たりの殺人件数の減少」だと述べた。さらに、「これからは、麻薬王たちは、逮捕されることはない。それが、我々の戦略ではないからだ。麻薬王たちに武装部隊を差し向けることは考えていない」とも述べた。

この発言の背景には、前々政権時代の2006年から始まった政府vs麻薬カルテルの戦争の結果がある。この10年余り、政府は麻薬カルテルのアジトに軍を差し向け、激しい銃撃戦の末に麻薬王たちを次々と逮捕してきた。しかし、それが組織の分裂を招き、かえって組織同士の抗争を激化させて多数の市民を巻き込む結果になったという批判がある。実際、各種データによれば、凶悪犯罪件数は増加の一途をたどっている。ただ、ロペスオブラドール氏の「福祉と教育による改革」にも、実効性を疑問視する声は多い。

■ 脱獄を繰り返した伝説の大ボス

メキシコの麻薬の最大の輸出先は隣国アメリカだ。トランプ大統領が強硬にメキシコ国境への壁の建設を主張する根拠も、根源を辿れば、アメリカに不法移民と麻薬をもたらすメキシコの不安定な社会情勢に行き着く。この壁問題も絡み、また、映画やTVドラマ顔負けのストーリーから、今、アメリカでは、ニューヨークで開かれている「エル・チャポ」の公判に大きな注目が集まっている。

スペイン語でズバリ「麻薬王」の異名を取るグスマンは、「世界最大の麻薬カルテル」と言われる「シナロア・カルテル」を率いてきた。非常に残虐で警戒心が強いと言われる男で、家族や愛人、側近も信用せず、常に周囲のやり取りを盗聴していたとされる。移動は装甲車という厳戒ぶりで、ライバルの暗殺、脅迫、誘拐も厭わない冷酷な姿勢で組織のトップに立った。

最初に逮捕されたのは、1993年。それから8年間、刑務所から麻薬密売の指揮を取り続け、アメリカへの引き渡しを恐れて2001年に脱獄。その際は、買収した刑務官に導かれ、洗濯物を入れたカートに紛れて脱走したという。2014年に再び逮捕されたが、2016年1月に、今度は独房のシャワールームの床下から外へと続くトンネルを通って脱獄。その1年後、麻薬戦争の遂行を掲げていたペニャニエト政権下で再々逮捕され、今度こそアメリカに引き渡され、現在に至る。

■ 麻薬カルテルから大統領へ賄賂も?

「エル・チャポ」の公判は、アメリカのシナロア・カルテルの隠れ家の一つがあったニューヨーク・ブルックリンの連邦裁判所で、昨年11月から行なわれている。罪状は、麻薬密売、マネー・ロンダリング、殺人共謀罪で、検察側は終身刑を求刑した。その検察側最終弁論とロペスオブラドール大統領の「これからは、麻薬王が逮捕されることはない」という宣言が、同じ日に行なわれたのは、単なる偶然だろうか?

NYのゴシップ紙、デイリー・ニューズは、「連邦検察がエル・チャポの終身刑を訴える一方で、メキシコの大統領は、麻薬王たちは自由に空気を吸うべきだと宣言」と、皮肉を込めて報じている。グスマンは「あらゆる階層のメキシコの政治家、当局者を買収した」と指摘されているが、公判では、元部下が、「エル・チャポは、ペニャニエト前大統領を1億ドルで買収したと自慢していた」と証言。ペニャニエトサイドはこれを否定しているが、大きな波紋を呼んだ(ワシントン・ポスト)。

そのペニャニエト氏の“逆張り”で当選したロペスオブラドール新大統領がクリーンかというと、これにも疑問符が投げかけられている。グスマンの公判で提出された検察側の資料には、ロペスオブラドール氏が出馬・落選した2006年の大統領選で、同氏の陣営がシナロア・カルテルから賄賂を受け取ったという情報が記載されている。その裁判資料には、「問題になっている賄賂は、メキシコ現大統領の、落選に終わった10年以上前の大統領選に関わったある個人に支払われた」とのみ書かれているという(ニューヨーク・ポスト)。

■ 「メキシコのボスが誰なのかがはっきりした」

ロペスオブラドール氏がどれだけ「エル・チャポ」や他の麻薬王たちと密接かは、ベールに包まれたままだ。しかし、麻薬戦争の終結宣言が、全米の注目を集める“麻薬王中の麻薬王”の裁判の重要なタイミングで出されたのは事実だ。グスマンの弁護団は、「元部下や政府による巨大な陰謀により、スケープゴートにされた」と無罪を主張している。そして、弁護人のエドゥアルド・パラレゾは、ロペスオブラドール大統領の宣言を受け、次のような意味深な発言をしている。

「今日のメキシコ大統領の発表は、誰がメキシコのボスなのかをはっきりとさせた」

重要なのは、「誰がボスか」ではなく、「誰が主役か」ではなかろうか。メキシコの主役は、メキシコ国民であり、大統領でも麻薬王でもない。

参照元 : ニューズウィーク日本版

▼麻薬王ホアキン・グスマンの映像



▼「麻薬カルテルのドンを逮捕するという直接対決は行なわない」と宣言したロペスオブラドール大統領







世界中、賄賂で汚れた政治家だらけ。メキシコだけではない。

エルチャポは当然、司法取引をしているだろう。

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