2016年11月19日土曜日

指定暴力団・山口組の総本部がある兵庫県、ヤクザと共生する神戸市民の意外な反応

ヤクザと共生する街、神戸市民の意外な「山口組観」

2016/11/16(水) 6:00配信



山口組と神戸山口組という2つの組織に分裂し、昨年は恒例の「子どもたちへのハロウィンのお菓子配り」が中止となった山口組。ところが今年は、子どもたちとの約束通り、菓子配りが復活した。市民からは山口組を慕う声も今なお根強い神戸市。「ヤクザと共生する街」の現実を取材した。(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

●「男の約束」を守った!  菓子配りに子どもは大喜び

「やっぱり“約束”をはたしてくれたんや! 」――。

今年10月31日夕方、文教地区にして閑静な住宅地として知られる神戸市灘区にある神社で、男たちが子どもたちに“菓子”を配っていた。兵庫県警関係者によると「山口組によるもの」という。

ここ数年来、指定暴力団・山口組総本部(神戸市灘区)では、毎年10月31日、ハロウィンの日に地元の子どもたちに菓子を配るのが恒例となっていた。

だが、昨年は配られることはなかった。去年、その山口組が貼り出した掲示には下のような一文が書かれていた。

≪(略)楽しみにして頂いて居りました御子様方には大変残念な思いをさせますが来年は必ず開催致しますので、楽しみにしていて下さい(略) 六代目 山口組総本部≫

「来年は必ず開催致します」――この子どもたちへの約束を山口組は果たした。

これに地元小学生はもちろん、大人たち地域住民は大感激だ。約束通り開催された今年の菓子配りを喜ぶ地元の小学5年生・ヒナちゃん(11)の傍らで、母親はこう語った。

「こういう約束は、政治家やお役所の偉い人、企業のトップなら『社交辞令』『空手形』で済ませることが多いですよね。それを(神戸山口組との分裂)騒動と警察の目もあるなかで、きちんと守ってくれるとは…。やっぱり山口組さんですね」

このようにヒナちゃんの母親も手放しで喜ぶ。同様の声は、他の地域住民からも多数聞かれた。山口組総本部近くに住む60代主婦は言う。

「皆さん、本当に礼儀正しくて。ちょっと見た目は怖い人もいてはるけど…。ここ(神戸市灘区)で山口組さんのことを悪く言う人はいません。ゴミ捨てのマナーもきちんとしてはります。山口組さんのお陰で、ここは静かな環境が保たれているところがありますね」

事実、山口組総本部周辺は高級住宅地ということもあってか、近隣を含めていつ何時でも清掃が行き届いている。立小便などはもってのほか。路上での喫煙や、たばこのポイ捨ても見当たらない。ペットの糞の始末もきちんとされている。もちろん、昼夜を問わず騒音を出したり、大音響を発する者もいないという。

元暴走族メンバーだったという40代男性は、約30年前の当時、山口組総本部周辺での「暴走行為は控えていた」と話す。

「正直、暴走族時代も今も、法の範疇で活動している警察は全然怖くはない。でも法の枠組みを超えた力と発想で生きている山口組さんに迷惑を掛ける度胸は、自分にはなかった」

●ワルは警察より山口組が怖い!?  ヤクザが市民に慕われる街

もちろん山口組から何かされたり、言われたりしたわけではない。それでも警察よりも山口組に、市民たちは怖れをなし、敬意を払っているように見える時がある。少なくとも、全国最大規模といわれる暴力団組織の存在が、町の秩序を保つのに役立っているわけだ。前出・元暴走族メンバー男性が続けて語る。

「神戸では、ヤクザの権威がまだまだあるから、それが犯罪の抑止力になっている気がします。悪さをしたら警察や裁判だけでは済まない“力”がある…そういう意識が関西人にはありますから」

実のところ、一部かもしれないが、市民のこうした意識に警察当局は困り顔を隠さない。兵庫県警関係者の一人が明かす。

「今回のハロウィン実施で、山口組を応援する市民が増えるようなことは断じてあってはならない。今回、(山口組総本部の)近隣とはいえ、ハロウィンでの菓子配りを許してしまったことは慙愧に耐えない」

確かに山口組総本部前に「詰所」まで設置、菓子が配られた神社の隣に交番も設置している兵庫県警察としては、その面目を潰された格好だ。これに、港町、商都という土地柄もあり、損得勘定に敏く反権力的な商人気質溢れる「神戸っ子」たちはやんやの喝采を送る。

元々、神戸市民にとって山口組をはじめとする暴力団という存在は、さほど怖い存在ではない。むしろ親しみある存在だ。その扱いは、三菱重工業神戸造船所、川崎重工業神戸工場、神戸製鋼所といった「神戸にある著名全国企業」と同格といっていい。

神戸生まれ、神戸育ちだという70代女性は、神戸市に住む高校生が高校枠で就職を希望する場合、戯言が過ぎる教員のなかにはこう進路指導する者もいたという。

「お笑いができるなら吉本興業へ。勉強が出来るなら三菱か川重、神鋼もいい。ソロバンが上手なら神戸銀行(現在の三井住友銀行の源流のひとつ)へ。腕っぷしが強いなら上組に。腕っぷしに自信があって頭も良くて、ソロバンが弾けるかお笑いができるのなら“山口組”や」

大阪に本社を置く吉本興業を除いては、すべて神戸に根付いた全国規模の企業である。もちろん現在では、たとえ冗談でもこのような進路指導は許されないだろう。しかし現在70代の女性が高校生だった昭和30年代後半から40年代初めは、暴力団(ヤクザ)を取り巻く状況が現在とは大きく異なっていた。

この頃の山口組のトップを務めていたのは、“山口組中興の祖”として名高い三代目組長・田岡一雄氏だ。敗戦の翌年、昭和21(1946)年から昭和56(1981)年までの長きに渡って、全国最大規模のヤクザ組織の頂点に立っていた田岡氏は、同時に、芸能プロモーションや港湾荷役といった事業を手掛ける「実業家」という顔も併せ持っていた。

田岡氏は実業家としての実績から、「神戸港船内荷役調整協議会委員」という公職にも就いていた。そうした縁もあり、昭和34(1959)年、田岡氏は神戸水上消防署の1日署長も務めている。いわば“町の名士”だ。

「ゆうてもヤクザや。その世界に身を置く人なら怖いやろう。そやけど、山口組さんはその世界では一流や。本物の男やもん。素人(一般市民)を泣かすようなことはせん。警察も役所も当てにならんとき、頼りになったのは山口組さんや」(前出の70代女性)

●“ハロウィン組長”が 神戸山口組に行ってしまった

女性が言う「警察も役所も当てにならない」とは、平成7(1995)年、阪神大震災のあった年、当時、五代目組長だった渡辺芳則氏の陣頭指揮の下、組織を挙げての救援活動を行ったことを指す。

震災後、避難所で不自由を強いられていた被災民に、いち早く食料はもとより、ミルク、オムツ、生理用品まで届けたのが山口組であることは、今では多くの人が知っている。前出の70代女性が続けて語る。

「震災後、役所はモタモタしてるし、食べ物、飲み物もよう持ってこん。市内はノーヘルの原付が走り回ってる。そんな時、お巡りさんは何も言わへん。不謹慎な言い方やて叱られるかもしれへんけど、あの時、最後に頼れるのは山口組さんなんやなて思うたわ」

近年では阪神大震災、古くは敗戦後のような混乱期、「法の枠組みを超えた力と発想」で動ける山口組のほうが、警察や行政よりも動きが早かった――というのは、率直な市民目線の感覚だろう。そんな背景もあってか、今回、山口組による“ハロウィン実施”は、神戸市民の間では概ね歓迎ムードだ。

「今の親分さん(六代目山口組組長・司忍氏)は、もともと名古屋の親分さんと聞いてます。それでも神戸のためにようやってくれてはると思います」

山口組総本部近くに住むという小学生の子を持つ40代主婦は、このように六代目山口組組長・司忍氏にエールを送る。それは暴力団を信奉するというのではなく、地元で尽力する政治家や財界人、活躍するスポーツ選手や芸能人への敬意に近いものである。

ヤクザと共生する町・神戸では、公衆浴場に行けば全身刺青の、ひと目でそれとわかる男性が入浴している場面に出くわすことも珍しくはない。そうした入浴中のヤクザに気軽に声を掛ける市民もいるくらいだ。

「お兄さん、ごっついの背負ってるな。山口組さん、それとも神戸(神戸山口組)さん? 大変な時期やろうけど頑張ってや! 」

こう声掛けされた刺青姿の男性は黙って会釈を返す。その様子はまるでスポーツ選手がファンに会釈する姿を彷彿とさせるものがある。

さて昨夏、山口組では、一部関係団体が脱会し「神戸山口組」を旗揚げしたが、この神戸山口組には、山口組のハロウィン実施時から采配を振るっていた“ハロウィン組長”として知られる大物幹部も参加した。捜査関係者の1人が明かす。

「実は去年、山口組はハロウィンを行うつもりでいた。ところが“ハロウィン組長”が抜けて、実施しようにもその手順がわからない。それで実施を見送ったというわけ」

突然の分裂劇で、“ハロウィン組長”も山口組に残る者たちに、その実施手順を「引き継ぎ」する余裕がなかったのだろう。

●市民には理解し得ない 「ハロウィン開催もひと苦労」

菓子を調達し、これを袋詰めして、子どもたちに配るだけのハロウィン実施に、一体どんな“手順”があるのか読者の中には疑問に思う向きもあるかもしれない。しかし、山口組がハロウィンを実施するのは、一般市民が考える以上に大変なことなのだ。今やヤクザは、暴力団対策法や暴力団排除条例実施の影響により、活動範囲は大幅に狭められている。

よく知られたところでは銀行口座を開設できない。不動産契約が結べない、宅配便を発送するにも、「組事務所」への荷物は断られるといったもののほか、刺青を入れるにしても「組の代紋を彫ると彫師を事情聴取する」(前出・捜査関係者)という徹底ぶりだ。

そうしたなかで、「山口組」として小売店にハロウィンで配る菓子を大量に注文することは極めて難しい。販売した側が警察から事情聴取を受けかねないからだ。販売側も丁重に断るだろう。昨年、山口組がハロウィン実施を断念したのは、子どもたちに配る菓子の確保に自信が持てなかったという事情が大きかったのかもしれない。

「またお家(山口組総本部)でハロウィンをやってほしい。仮装して行きたいわ。“Trick or Treat! ”て声かけたら、お兄さんたち“Happy Halloween! ”て返してくれるんよ」

冒頭部で紹介した小学5年生・ヒナちゃんが屈託のない笑顔で言う。

だがヒナちゃんが来年、山口組総本部に仮装してハロウィンに行けるかどうかは微妙な情勢だ。兵庫県警関係者、大阪府警関係者によると、「そろそろ関西も忙しくなってくるのではないか」というのがもっぱらの声だからだ。

というのも今年に入ってから、東京では山口組、神戸山口組の“代理戦争”ともいえる小競り合いが勃発している。

分裂した2組織は、いよいよ地元・関西で本格的に競り合うことになるかもしれない。今回、兵庫県警は山口組のハロウィン実施を許してしまったが、まさか市民を巻き込んだ抗争をも許してしまうというようなことはないだろう。

時代は確実に移り変わり、平成18(2006)年末には構成員、準構成員等あわせて3万9700人いた山口組だが、平成27(2015)年末には、その数は1万4100人にまで激減している(警察庁調べ)。暴力団への風当たりが強い今、かつて市民から頼りにされた“山口組さん”は衰退に直面している。

秋山謙一郎 [フリージャーナリスト]

参照元 : ダイヤモンド・オンライン




1 件のコメント:

  1. 二段目のツイート、完全にヘイトスピーチです。しかも、殲滅とか言って犯罪助長してますし、このようなツイートを信じて拡散するようなブログだったとしたら残念です

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