2016年11月2日水曜日

暴力団を辞めてカタギになった後に待っているのもの

新たな「指」で再出発 ヤクザ、辞めたあとに待っているもの…専門記者が教えます

2016/10/31(月) 7:00配信



ドラマや映画でよく見るヤクザですが、本物に会ったことがあるという人は、少ないのではないでしょうか。本人たちに聞けない代わりに、ヤクザに詳しい専門記者に聞いてみました。ヤクザって辞めたあとどうしているんですか? 記者が取り出したのは……なんと「指」でした。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

「やつら、許さぬ」
こたえてくれるのは朝日新聞東京社会部の緒方健二記者(57)。

暴力団など組織犯罪と事件の専門記者です。

裏社会を深く取材するようになったのは、1990年ごろからだそうです。

九州の暴力団抗争で、高校生が組員と間違えられて射殺されてしまう事件など、いろんなヤクザの事件を取材するうちに、「やつら、許さぬ」と決意したそうです。

緒方記者「みなさん、暴力団は自分とは関係のないワル集団っちゅう認識でおられると思いますが、意外と身近なところでみなさんを巻き込もうとしております。ご注意ください」

対するは、大学生ら20歳前後の若者9人。

「ヤクザに詳しい記者と話したい人」と募ったところ、「ぜひ!」と来てくれました。

車も口座開設もダメ
学生「自動車保険の書類を見ていたら、『暴力団員が親族にいる方はお断り』というようなことが書いてありました。ヤクザは車を買えないんですか?」

緒方記者「ああ、いい質問ですね。いま、警察は暴力団を壊滅させよう、数を減らそうと力を入れています。さまざまな業界に『組員と取引しないで』と協力を求めて、排除条項を設けてもらっています。車の販売もそのひとつです」

学生「へえ~。そうなんですか」

緒方記者「ほかには公共事業への参入とか、金融機関の口座開設やゴルフ場利用もアウトのところが多いですね。すべての都道府県が2011年までに暴力団排除条例をつくりました。社会全体で『暴力団を排除しよう』という機運が高まっています」

学生「厳しいんですね」

緒方記者「取り締まりや排除は必要ですが、排除をきつくやりすぎると、かえって彼らを追い込んで事件を誘発しかねません。取材した元組員は、組織を抜け、堅気になって10年以上たつのに、いまも口座がつくれないと嘆いています。一般的に離脱後5年でOKとされているんですが、金融機関に拒まれてしまうといいます。これでは立ち直りに支障をきたすでしょう」

学生「それだけ厳しく排除をすると、ヤクザの世界も変わってきましたか?」

緒方記者「暴力団を取り締まる法律に、『暴力団対策法』っちゅうものがあります。略して暴対法。1992年に施行されました。当時、暴力団員は全国に9万人いました。じゃあ、私から質問です。暴対法の施行から24年がたちましたが、いま暴力団員って何人くらいだと思いますか?」

学生「半分……?」
                        
緒方記者「正解です。警察庁の発表だと、4万7千人。ただ、この数は信用できません。『指定暴力団』という言葉を聞いたことがあると思いますが、暴対法の取り締まり対象にするためには、指定をしないといけない。指定の条件には、犯罪歴のある構成員の比率がどうかとか、いろいろ規定がある。それを逃れるために、暴力団は意図的に組員を破門したり絶縁したりで組織外に出す。で、その辞めた『偽装離脱組』が何をしているのかといえば、組員と同じようなことをやってるんですけどね」

組長が一日署長?
学生「ヤクザがいなくなったら、社会に影響ってあるんですか?」

緒方記者「まず、昔の話をしますね。終戦後、日本がとても混乱して治安が悪い時代がありました。警察も態勢が整っていないため、対応が十分ではなかった。警察は公式には認めませんが、一時期暴力団の力を借りたこともあったようです。関西では、著名な組長が『一日署長』のようなものを務めたことがあるそうです」

学生「えっ!?」
                          
緒方記者「今では考えられないことです。古い暴力団の人たちには『戦後の混乱期に日本の治安を守る手助けをした』という自負があるようです。70歳代の組長は、私の取材に『終戦直後だけではなく、その後も警察にも行政にも協力してきた。使えるときは使っておいて、これからは排除一辺倒では納得できない』と話していました」

学生「……」
                        
緒方記者「今の話に戻します。あちこちで暴力団を排除する動きが強まっています。もちろん排除は必要ですが、次は、暴力団を辞めた人たちを社会としてどう受け入れるのか、がとっても大きな問題です。2015年には約600人が暴力団を抜けています。暴対法には、組織を抜けた人の就労支援をすると明記してあるんですが、日本の警察は、こちらのほうはちょっとお留守になっています。これ、見てください。(ポケットから取り出す)」

学生「えっ!? 指!?」
                      
緒方記者「いろんな理由で指を落としてしまう人がこの世界では多いのですが、これはそんな人向けに作った小指の義指です。以前、これをつくる人の記事を書きました。東京・練馬にある『愛和義肢製作所』の林伸太郎さんです。本来は、生まれつきや事故、病気で体の一部がない人に義手や乳房などをつくるプロです。ある時、暴力団を自分の意思で辞めたっちゅう人が、訪ねてきたそうです」

学生「義指を見てもいいですか?」
                  
緒方記者「どうぞ、みんなに回してはめてみて。林さんは、元組員の話を聞いて『依頼主が必要なものを形にするのが仕事。社会復帰に役立つなら』と引き受けたそうです。私も、ここで義指を作った元組員の人たちに話を聞きましたが、指の欠落は更生の大きな支障になるようです。苦労して就職した会社では結局、指の欠落を理由に退職を迫られたそうです。『指さえあれば』と、この製作所に来ました」

「元ヤクザ」を受け入れる
学生「ものすごくリアルにできてますね」

緒方記者「すごいでしょ。雇う側からしてみたら、元組員で、しかも指がないと敬遠するでしょう? 義指を作る工程を見せてもらったけど、何度も何度も試作を重ねて、それは時間のかかるものでした。完成品をはめた元組員が『新しい指が生えてきたみたい』と喜んでいたのが印象に残っています。ここで指を得て、会社を興した人もいます」

緒方記者「就労支援を法律で約束する警察は、指の欠落に悩む元組員に製作所を知らせたりするとか、取り組みをもっとやるべきだと思っています。暴力団を辞めても、定職につけなくてまた暴力団に戻ったり、盗みに走ったり、覚醒剤とか特殊詐欺の世界に入ることがあるんですよね。そういうことの社会的コストを考えると、たとえ元組員であっても、社会全体で受け入れるすべを考えた方がいいと思います」

緒方記者と学生らの対談は、約90分間。途切れることなく質問が続きました。学生たちは、驚き、笑い、息をのみ、緒方記者の話を聞いていました。いい「課外授業」になったようです。

参照元 : withnews


▼元組員のために作られた「小指」





▼本物の破門状









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